ISBN 9784326153954

自閉症の現象学

自閉症の現象学
著者
村上靖彦
出版社
勁草書房
刊行
2008-05

概要

自閉症児の経験構造をフィールドワークと現象学から解明する

想定読者

現象学・認知科学・発達心理学を研究・学習する大学院生や研究者、臨床・支援現場で自閉症理解を深めたい専門職

こんな人には向いていない

  • 自閉症の診断基準や支援技法を即座に習得したい実践者には、哲学的分析の比重が大きく実用情報が少ない
  • フッサールやメルロ=ポンティの現象学に馴染みのない読者には専門概念が前提なく展開される
  • エビデンスベースの行動介入手法を探している支援者には対象外

読了後にできるようになること

  • 視線触発という概念を通じて、自閉症児の対人知覚がどのように定型発達と異なるかを説明できる
  • フッサールの時間論を参照しながら、自閉症における時間経験(流れない時間・フラッシュバック)の構造を記述できる
  • 奥行き・空間構成の差異から、自閉症児が路線図的空間を優先する理由を現象学的に解釈できる
  • エコラリア・クレーン現象・ミニカー並べといった行動に対して行動記述を超えた論理的一貫性を見出す視点を得る
  • 間主観性・身体性・知覚的空想などの現象学概念を自閉症研究に応用する方法論を理解する
  • 既存の他者論(フッサール・メルロ=ポンティ)を自閉症の視点から批判的に組み替える思考回路を習得する

本書のキー概念(章解説)

  • 第 1 章 模様の世界から視線触発へ — 本書の中心概念『視線触発』が導入される最重要章。まずここを通読することで全体の論理が見通せる
  • 第 2 章 視線はなぜ怖いのか——感情の図式化と間身体性 — 視線恐怖・自他区別・間主観的独我論を論じ、臨床現場でよく見られる行動の哲学的根拠を示す
  • 第 3 章 流れない時間——不測の事態と現実、視線の強度 — フッサールの感性的時間論を軸に自閉症固有の時間経験を分析。哲学的素養があると最も読みごたえがある章
  • 第 4 章 平らな空間——奥行きの起源について — 身体と空間感覚の関係を解く。路線図的空間という独自概念が提示される
  • 第 5 章 『ミニカー並べ』と思考の構造——形の次元と知覚的空想 — 並べ遊び・曼陀羅への没頭など一見無秩序な行動に一貫した思考構造を見出す
  • 第 6 章 言語を使わずに思考する——知覚的空想とリズム — エコラリアと言語分節の関係を論じ、言語外の思考形式を現象学的に記述する
  • 第 7 章 クレーン現象は誰の行為か?——内面とカテゴリー的人格 — 行為主体・人称代名詞・サリー=アン課題を扱い、内面性の哲学的問題に踏み込む
  • 第 8 章 自閉症児の脆弱性と経験の限界値 — 折れ線型・アスペルガー等の多様な臨床像を横断し、現象学的枠組みの射程を確認する終章

ハイライト

  • 呼びかけられても人の存在に気がつかない、くすぐられるとパニックを起こすが転んでけがをしても痛がらない、といった自閉症児の行動はどうして起こるのか。一見不可解な自閉症児の行動に一貫した論理を見出し、自閉症の現象学を立ち上げる。既存の哲学の前提を組み替える、画期的な試み(一見矛盾に見える感覚反応の非対称性を論理的に説明しようとする本書の問題意識が最も端的に示されている)

編集メモ

Qiita 記事 0 件 / 楽天ランキング情報なし。関連トピック phenomenology は専門性が高く言及が少ない領域。書誌情報のみによる評価

読む前に押さえておきたいこと

  • フッサールの志向性・時間意識など現象学の基礎概念(メルロ=ポンティの身体論まで含めると第2〜4章の理解が深まる)
  • 自閉症スペクトラムの臨床像についての基礎的な知識(DSM 的な診断基準の概要程度)

学習のコツ

  • 第1章『視線触発』の概念を把握してから第2〜4章に進むと、感情・時間・空間の各章が同一論理の展開として読めるようになる
  • 補論『他者の現象学の再構想』はフッサール・メルロ=ポンティの従来論を整理するため、現象学の背景知識が薄い場合はここを先に読むのも有効
  • 第8章は多様な臨床像(折れ線型・アスペルガー等)を扱うため、支援現場に携わる読者はここから逆引きして関連章を参照すると実践に接続しやすい
  • フィールドワーク由来の具体的なエピソードと哲学的概念の往復が本書の特徴。エピソード部分だけを追うと論証が薄く見えるが、概念の定義と照合しながら読むと構造が見えてくる
出版社による内容紹介

自閉症の人たちは、世界をどのように経験しているのか?フィールドワークをもとに、現象学によってその経験の構造を明らかにする。 呼びかけられても人の存在に気がつかない、くすぐられるとパニックを起こすが転んでけがをしても痛がらない、といった自閉症児の行動はどうして起こるのか。一見不可解な自閉症児の行動に一貫した論理を見出し、自閉症の現象学を立ち上げる。既存の哲学の前提を組み替える、画期的な試み! はじめにーー自閉症から描く哲学 第一章 模様の世界から視線触発へ  1 目が合う驚きと視線触発  2 人のいない世界/模様の世界  3 視線の誕生と世界変容 第二章 視線はなぜ怖いのかーー感情の図式化と間身体性  1 視線恐怖  2 感情の理解  3 自他の区別  4 間主観的独我論 補 論 他者の現象学の再構想  1 従来の現象学における他者論  2 視線触発の内的構造  3 視線触発の次の段階 第三章 流れない時間ーー不測の事態と現実、視線の強度  1 フッサールの感性的時間論と自閉症  2 未来  3 過去についてーー自閉症におけるフラッシュバック  4 視線の時間 第四章 平らな空間ーー奥行きの起源について  1 身体という奥行き  2 奥行きという論理構造ーーカントの「原則論」から考える  3 路線図的空間ーー自閉症児固有の空間構成  4 安心感ーー視線触発に由来する空間性としての 第五章 「ミニカー並べ」と思考の構造ーー形の次元と知覚的空想  1 無秩序な遊び  2 並べ遊び・常同的な感覚遊び  3 曼陀羅とものまねへの没頭  4 ごっこ遊びとままごと 第六章 言語を使わずに思考するーー知覚的空想とリズム  1 エコラリア  2 語の分節と身体の関係  3 イメージ思考ーー思考の生じる場について  4 リズム論  5 意味と対象性の起源としての知覚的空想 第七章 クレーン現象は誰の行為か?--内面とカテゴリー的人格  1 定型発達における人格  2 クレーン現象ーー行為主体の不在  3 知らない人を「ママ」と呼ぶーー人称代名詞について  4 サリー=アン課題と内面性  5 他者という謎と人称代名詞 第八章 自閉症児の脆弱性と経験の限界値  1 常同行動と現実  2 折れ線型と小児崩壊性障害における退行  3 アスペルガー障害および高機能自閉症における現実 おわりにーー自閉症児の療育のために 注 あとがき 参考文献 索引

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